お知らせ

2019.06.27コラム知っていますか? 肩こり


ある日、私の外来に20代の女性が来られ、「肩こりがひどくて気分が悪くなるんです。」と訴えられました。その女性は学生の頃から肩こりがあり、最近仕事をするようになってデスクワークで下ばかり向いて特にひどくなったということでした。
この女性は非常に痩せたなで肩で、首の長い体格をしておられました。
頚椎のレントゲン撮影をしてみると緩やかなカーブをした生理的彎曲がなくなり、まっすぐで前方に倒れた状態でした。「あなたはなで肩で、首が細くて長いために、これを支える首の後ろの筋肉が慢性的に疲れているんですよ。キリンさんと熊さんとではどちらが首が疲れると思いますか? 当然キリンさんの方があの長い首を支えるために、首の付け根の筋肉が強くないと前に傾いてしまいますよね。このためにキリンの首の付け根は、頭や首に比べてすごく太くなっているでしょう。あなたも首の付け根の筋肉をつける運動をしていきましょう。」と説明しました。

人間の頭は、大人で3~4kg、ペットボトル約2本分というかなりの重さになります。
これを色々な方向に傾けるわけですから、頭を支える頚椎には想像以上の負担がかかります。
頚椎のまわりの筋肉は脊柱起立筋や僧帽筋と呼ばれる筋肉ですが、日本人女性に多い「なで肩」の人では、この筋肉が弱くていつも緊張するため筋肉の中の血管がつぶれて血流が悪くなり酸素不足の結果、老廃物がたまって肩こりを生じます。
また、デスクワークのような下を向く姿勢を長時間続けてもこれらの筋肉が引き伸ばされて緊張し肩こりが生じやすくなります。従って肩こりの疫学調査をしてみると、肩こりのピークは30代~50代の働き盛りの人に多くみられ、これ以上の高齢になると筋肉疲労も少なくなり、ストレスからも解放されて肩こりは幾分減ってくるようです。

ここまで示した筋肉疲労性の肩こり以外に、40代半ばから50代半ばにかけておこる女性の肩こりの原因として「更年期障害」があります。これは、老化現象としてホルモンバランスが変化し、自律神経が不安定になり、その結果血液循環の乱れを生じて肩こりを引き起こし易くなります。また、前出の「なで肩」の人は胸郭出口症候群といって鎖骨と肋骨の間が狭いためにここを通る血管や神経が圧迫されて肩のまわりの痛みを起こすこともあります。その他、肩こりを一症状とした頚椎の病気や損傷が原因の場合もあります。

筋肉疲労性の肩こりには、正しい生活習慣を身につけることや生活環境を改善することが治療の第一歩です。たとえば机と椅子の高さの関係を見直してみたり、パソコンの位置を高くして目線が水平になるようにすると、首の自然な彎曲を保つことが出来ます。
また寝る時の枕の高さも首のまわりの筋肉をリラックスさせるように高い枕は避けるべきでしょう。
この時の注意点として、横向きで寝る人は別にやや高めのものを両サイドに置き、どちらを向いても首の自然なカーブが保てるようにした方がよいでしょう。
さらに治療として循環をよくするためのマッサージ、温熱療法や鍼・灸も効果があるでしょう。
温熱療法としては、入浴、蒸しタオル・使い捨てカイロやドライヤーの温風などで、患部を温め血行を促進する方法などがあります。
またストレッチや首の運動により筋肉の緊張を取り去ることで循環をよくする方法もあります。
次に疲労しにくい筋肉をつけるための体操もかかせません。首の前後屈や側屈などの運動をしながら、自分の手で抵抗を加えることで筋力アップを図りましょう。

筋肉疲労性以外の肩こりの場合には、何よりもまずその原因となる疾患を追求するために専門医の診察を受けることをお勧めします。