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2019.06.27コラム知っていますか? 五十肩


ある日、私の外来に、70代のお元気そうな男性が「最近、左肩を動かすと痛いんじゃが、何でかのう?」といって来院されました。レントゲンでは異常を認めず、私は「関節の周囲に炎症が起こっていて、一種の老化現象によるものです。いわゆる五十肩ですよ。」とお答えしました。すると、その男性は「私は74歳ですよ。五十肩ではないでしょう。」とおっしゃいました。

五十肩は、50歳代の人に最もよく見られることから一般にこう呼ばれていますが、40歳代でも、60歳代でも、時には80歳代でもおこります。
よく四十肩とも言われ、同じものを指しています。五十肩は、医学的には、「肩関節周囲炎」と呼ばれ、その名の通り、肩関節の周囲に炎症が起きているもので中年以降の人に、男女差なく見られ、一種の老化現象によるものと言えます。
肩の関節は、肩甲骨と上腕骨の間で動いていますが、肩甲骨に対して上腕骨がぶら下がって付いているためにこれを支える目的で9つの筋肉が付いています。そのうち五十肩の発生に関係が深いのは、いわゆるインナーマッスル(関節の内側の筋肉)と呼ばれる関節を直接包むように位置する4つの筋肉です。
これらの筋肉は、骨に付く部分が腱(けん)のような組織でおまけに板のような形をしていることから、『腱板(けんばん)』とも呼ばれています。
腱板は中年以降になると、弾力性が失われて硬くなり(変性)、周囲の潤滑液が枯渇してくることも手伝って、ちょっとした力が加わるだけでその表面に傷がついて炎症を起こしてしまいます。
ちょうどズボンの皮のベルトが古くなるとバックルのあたる部分がこすれてくるのを想像してみて下さい。この腱板の表面がささくれ立って赤く炎症を起こした状態が五十肩の始まりです。

五十肩の炎症症状の出現した急性期には、肩を安静にして患部を冷やし炎症をしずめるようにしましょう。湿布や消炎鎮痛剤も効果があります。
しかしこうした症状が約1週間続いた後は、からだの炎症が治ってくる過程で、患部周辺の組織が自然と癒着を起こしてきます。
このため肩や腕が動きにくくなって、無理に動かそうとすると逆に激痛に見舞われることもあります。
そのためついつい痛みを避けて腕を動かそうとしなくなってしまいます。その結果、関節包や筋肉そして腱板が癒着して固まってしまいます。
整形外科の外来に来られる患者さんの多くがこの時期になって来院されます。
ひどい場合には、この時期を過ぎてまったく肩の動かない『凍結肩』と呼ばれる状態になるまでがまんして来院されます。
この時期、すなわち慢性期には肩の拘縮に対する治療が主体になります。
具体的には、温めて運動をすると良いでしょう。ちょうど体の硬い人の柔軟体操をすることと同じで、ストレッチなどのリハビリ訓練が中心になってきます。
コッドマン体操と呼ばれるアイロンを持っての振り子運動や患部の血行を良くする肩周辺の筋肉マッサージも効果的です。しかし運動療法には痛みが伴うことも多く、消炎鎮痛剤や、関節内注射も除痛のためには必要となります。
要するにこの慢性期に大事なことは、いろいろな方法で除痛をしてでも肩関節をどうにかして動かすことなのです。また、先に述べたように腱板周囲の枯渇した潤滑液を補う目的で、膝関節にしばしば用いられるヒアルロン酸ナトリウムを注射するのも、滑りが良くなり関節が動かし易くなって除痛効果があります。
ちょうど、硬くさびついたドアの蝶つがいに油を流すと音もせず軽く動くようになるのと同じです。いずれにせよ、五十肩はいずれは治る病気ですが、時期にあった適切な治療を早い時期に始めることが苦痛を長引かせないコツなのです。

こうした五十肩の治療を続けていてもなかなか痛みがとれなかったり、特に夜間に痛みが強まり不眠を訴えられる場合があります。こういった場合に検査をしてみると腱板が断裂していることも少なくありません。断裂している場合はその断裂部の大きさにより治療方法が異なりますが、比較的大きな場合、投薬や注射、運動療法では断裂した腱の修復は期待できず筋肉の萎縮さえも起こってきます。
症状が頑固で痛みのために夜も眠られず、生活動作に支障をきたす場合は、早く社会復帰をするために縫合手術をすることが必要になります。