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2019.06.27コラム知っていますか? 変形性ひざ関節症

「立ち上がる際に、膝が痛むんですが…。」と言って整形外科の外来を訪れる女性患者さんが増えています。その大部分(50歳以上の女性では8割以上)が、「変形性膝(ひざ)関節症」といっていいでしょう。
変形性膝関節症とは、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(下腿骨)の間にある膝関節の表面を覆っている軟骨が傷んだ状態をいいます。長い年月の歩行や運動で繰り返し衝撃力が加えられたため、この2つの骨同士がぶつかり合う衝撃を弱めるクッションの役割をしている軟骨に、傷がついて削れていったために起こります。
変形性膝関節症の特徴的な症状は、椅子から立ち上がる時や正座をするときに膝が痛む、階段の上り下りで膝が痛む、歩き出す時に痛み歩きにくい、などが多く「動作」とともに膝の痛みが出現します。これらは初期の症状で、痛みがすぐにおさまったり、痛みがあってもがまんできる程度で気にとめないで過す人が多いようです。
変形性膝関節症は、男性よりも女性の方が、4~5倍多く発症します。女性は筋肉が少なくて弱いうえに、O脚の人が多いことが原因と考えられます。また、女性は中年をすぎると肥満傾向になる人が多いことも原因の1つです。日本人女性ではややO脚の人が多く、力学的に膝の内側に偏って体重がかかる事により、膝関節の内側の軟骨ばかりがすり減っていき、ついには内側の骨までも変形していきます。
膝への体重のかかり方は想像以上に大きいものです。直立している時は、体重分の圧力しかかかっていませんが、歩き出すと普通の速さで歩いても、膝には体重の2~3倍の重さがかかってきます。スピードを上げると瞬間的には体重の5~7倍の圧力がかかることもあります。従って、50kgの人が歩けば瞬間的にでも膝には300kg近い圧力がかかっていることになるのです。
膝は強い衝撃を受けた際、関節が曲がる動作でもこの衝撃を吸収します。しかし中高年になると膝の筋肉も弱り、この動作がうまくいかずに衝撃が直接軟骨におよび、より軟骨の破壊が進むという悪循環に陥ってきます。
では、どのように予防、治療をしていけばいいのでしょうか? 発症のメカニズムを考えてみても、変形性膝関節症の治療で最も基本的な治療法は運動療法です。運動療法は、膝の筋力強化とダイエットを目的としたものです。膝の筋力強化は、特に膝を伸ばす筋肉(大腿四頭筋)を強化しましょう。ダイエットについては、まず過食していないかどうか、日々の食生活をチェックしましょう。次に、運動を取り入れていきましょう。ここで大事なのは、どんな運動が適しているかです。スポーツは膝にとって必ずしも良いものばかりではありません。山登りやジョギングなどは膝に負担がかかるスポーツです。ウォーキングは、手軽でお金もかからない良さがあるものの、先にお話したように膝の軟骨へ圧力がかかりますので平地を歩きたいものです。水中歩行や水泳、自転車こぎ(エアロバイク)、水中エアロビクスなどは理想的な運動です。水中歩行では、膝の軟骨にかかる圧力は5分の1~10分の1に減少し、また水中で体を動かすと水の抵抗力がかかり筋肉に大きな運動効果が得られます。エアロバイクはサドルに座っているので、体重が膝にかからず、しかもペダルをこぐことで、脚の筋力強化に役立ちます。
変形性膝関節症の運動療法に補助装具を使うと安全です。O脚の進んだ人の場合、図に示すように体重は膝の内側にかかり、また同時に足の外側にかかって、履いている靴の外側がすり減るようになります。そこで、くさび型をした足底板(インソール)を靴底として敷くと、図のごとくO脚が矯正されて、膝の内側にあった体重の重心が外側の健常な軟骨に移動して、これ以上内側の軟骨がすり減っていくのを防いでくれます。くさび型をした足底板は、それぞれの足にあったものが適しており、整形外科の外来で自分の足型を採ってもらい作成したものが良いでしょう。
以上のような、運動療法でも痛みの取れない変形性膝関節症では、整形外科の外来で、膝の動きを滑らかに動かすためとすり減った軟骨の栄養をおぎなう目的で、人工の関節液であるヒアルロン酸ナトリウムを膝関節内に注射します。また、骨もえぐれて変形してしまった末期の変形性膝関節症には、変形を治す目的の手術が必要です。
「ひざが年をとってきた状態」である変形性膝関節症は、健康な人なら必ずやってきます。これまで何十年も体重を支えてきて疲れてきた膝を、これからは少し大事にしてうまく使っていく事を心がけましょう。