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2019.06.26コラム知っていますか? 膝に貯まる水のこと

ある日、私の外来に、60代のO脚をした女性が膝を腫らして来られました。そこで私はレントゲン検査の後、「変形性膝関節症です。膝関節の内側の軟骨がすり減って傷ができたため炎症を起こしています。その結果、異常な関節液がたくさん貯まっています。関節液を抜くと楽になりますよ。」と説明しました。すると患者さんは、「膝の水を抜くと『くせ』になると人が言うが大丈夫ですか?」と尋ねられました。私は、「『くせ』になると思われるのは、何度か抜かなければならないからで、傷ついた軟骨が治らなければ、また関節液が異常に産出されて腫れてしまいます。水を抜いた後に、炎症をおさえる薬を注射して傷が治れば、だんだんと水は貯まらなくなります。」と説明しました。そして「異常に貯まった関節液は汚い関節液で、軟骨にも良くありません。オシッコが膀胱に貯まって出さなければどうなりますか? 尿毒症になってしまうでしょう。貯まってしまった汚い関節液は抜いて出したほうが体にはいいんですよ。」と付け加えました。
膝に水が貯まることを、『膝関節水腫』といいますが、その原因として最も多いのが変形性膝関節症です。膝の関節の軟骨がすり減って破壊され、関節包の内側を被っている滑膜(かつまく)という組織にも炎症が起こり、ここで産出されている滑液(関節液)が異常に産出されて貯留するようになります。これが水が貯まった状態です。貯留した関節液は炎症の結果生じたものなので、正常の関節液とは組成が違うため、残された関節軟骨へも悪影響を起こします。(すなわち、膝の水を抜く方が『くせ』になることを防ぐ効果があるのです。)また、膝に水が貯まると、それ自体関節の動きを制限して、膝の痛みが出たりもします。

 


膝の水を抜いた後は、せっかく痛い思いをして針を刺したので、関節内の滑膜の炎症を和らげるためにその針を使ってステロイドというホルモンの一種をよく注入します。これにより滑膜の炎症が鎮静化し、その結果痛みも和らぎます。ただし長期に続けると関節軟骨に悪影響を及ぼしたり、感染の原因を作ることもあり注意が必要です。
また、最近よく使用されている注射薬がヒアルロン酸ナトリウム製剤です。この名前は女性の化粧品の組成にも含まれているもので耳にした方もあるかと思いますが、ヒトの関節液の成分の一つです。従って、本来正常の関節液の役割である関節軟骨の表面を保護することや、軟骨の栄養をつかさどることで、軟骨がこれ以上壊されるのを防ぐ作用をもっています。現在、ヒトの関節液に含まれるヒアルロン酸ナトリウムに近い分子量をもった合成のヒアルロン酸ナトリウム製剤が使われています。水すなわち異常な関節液を抜いて、この正常な関節液に含まれる成分のヒアルロン酸ナトリウム製剤を注入することを週1回、計5回位注射することで関節軟骨の表面を保護します。その結果、軟骨の傷が治り、関節の水が貯まらなくなります。
変形性膝関節症の治療法は、この他に関節への負担を軽減させるために、体重減量や生活様式の改善が必要です。重量物を持たない、正座や和式トイレをさけることが基本です。膝関節の安定性を得るために、太ももの筋肉の強化も重要です。膝を伸ばす運動や、自転車こぎ、ウォーキングなども効果的です。膝の痛みの強いひとには、水中歩行をお勧めします。膝の周囲には脂肪組織が少なく冷えやすいので、保温や入浴時のマッサージも役立ちます。また、「知っていますか? 脚の一生」でもお話したように、膝の内側の負担を取り去るために、足底板という靴底やひざのサポーターも有効です。