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Karte18 知っていますか? 人工関節置換術
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今回は人工関節についてお話しましょう。第14号のこのコーナーで取り上げた変形性膝関節症をはじめとして、ヒトの関節には年をとるにつれて変形が生じてきます。とくに、全体重がかかって動く膝と股関節は磨耗がひどく、関節表面のクッションの役割を果たしている軟骨が削れていき、最終的には骨が変形してきます。前のこのコーナーでお話した通り、変形性関節症と診断されても保存療法を行うことでほとんどの人の痛みは軽減されます。しかし保存療法だけでは痛みを軽くすることが出来ず、痛さのあまり日常生活に多大な不便を感じるようであれば、つぎの治療法として手術を考えなければなりません。
手術にはいくつかの方法がありますが、関節の変化が強く、痛みの激しい患者さんには、関節手術の最後の切り札として人工関節置換術が必要です。人工関節置換術は、痛みの原因となっている変形した関節表面を削り、そこに人工関節をはめ込む手術です。ちょうど上下の奥歯が大きな虫歯になっている人が、その部分を治療して銀歯をかぶせると固いものを食べても痛くなくなるのと同じように、人工関節に置き換われば全体重をかけて歩行しても痛みがなくなると考えてもらえば良いでしょう。
人工関節は、約40年前にその原型ができて以来、自動車が発展したと同じように、原料も質も形も日進月歩で良くなってきています。現在は、膝、股関節ともにステンレス・スチールやコバルト・クロム合金、チタン合金といった金属部分と高分子ポリエチレンという合成樹脂とを組み合わせてできたものが主流で、250グラム〜300グラムの重量をもっています。人工関節が骨に接する部分は主に金属で出来ていますが、骨に固定するために骨セメント(メチル・メタクリレートという合成樹脂)を使います。しかし、差し歯や銀歯がゆるむように骨セメントの接着力は年々徐々に落ちていき、体重をかけることでセメントに小さな破損が生じて、人工関節と骨の間ですき間が生じてゆるみの原因となることがあります。そこで最近では骨セメントを使用せず、自分の骨の「新陳代謝を利用して骨の形成を促し、骨と金属をがっちり固定するセメントレス人工関節が盛んに用いられています。しかし、骨自身は年齢とともにもろくなっていくため、人工関節を設置する骨側の問題で、セメントレス人工関節は比較的若い60歳代までの骨質の良好な患者さんに用いており、それ以上の高齢な患者さんには骨の形成による固定は期待できないため骨セメントを用いているのが現状です。一般的に、最近の人工関節は15年〜20年もつと言われていますが、これも人工関節が設置される患者さんの年齢と骨の質に依存することが大きいといって良いでしょう。すなわち、人工関節置換術を受けた高齢の患者さんは、骨が弱いために骨と金属の間にゆるみが生じてきます。同時に、関節周囲の筋肉も弱り、その結果関節も不安定になり、これらも人工関節の寿命を短くします。一方で、人工関節に使われているポリエチレン部分は、1年に0.1ミリ程度摩耗すると言われます。つまり20年経つとポリエチレンは計算上2ミリ薄くなり、人工関節そのものの動きにも変化が発生します。またこれによって生じた粉末が人工関節と骨の間にできたゆるみの部分に侵入してゆるみを助長することもあります。人工関節の寿命を最大限に引き伸ばし、ゆるみが生じたため再度人工関節を新しいものに入れ替える再置換術を避けるためには、患者さんの自己管理を心がけることが必要となってきます。太らないこと、関節周囲の筋力をつけること、重労働を避けること、活発なスポーツは避ける、などです。
一般的に、日本では手術は最後の手段、手術は一生に一度と考える人がほとんどですが、欧米人のように痛みを我慢するより現在の生活を最優先して、この15年間、20年間の生活を楽しく過ごしたいと考えるのも一つの考え方でしょう。思い切って手術を受けた後で天と地ほどの差で楽に動けるようになったと言われる患者さんもたくさんおられます。手術を受ける前の20年間、旅行もいったことがなかった患者さんが、海外旅行のお土産をもって来院して下さることもあります。
人工関節置換手術を受けられる患者さんの生活はさまざまで、人生観も皆違いますから、手術については専門医と納得の行くまで十分に話し合って、この手術を受けることの長所と短所を十分に理解された上で、ご自身で手術の決断をされることが望ましいと考えます。

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